「なんてな」
そう言った藤堂社長は楽しげで、どこか少年っぽさを感じる。
思わず見入ってドキドキしていると、テーブルの上にコース料理のオードブルとスープが運ばれてきた。
「さ、遠慮なく食べろ。ここは星を取ってるはずだから、前菜から全然違うぞ」
「! はい。ありがとうございます」
(緊張してきた。きちんとマナーは守らないと)
再び真面目な秘書の仮面をつけ黙々と食事をしていると、再びテーブルの中央で藤堂社長と視線が絡んだ。とすぐに、少なくなったワインを勝手に足される。
「俺が接待してる立場なんだから、もっと普通にしてろ。それにプライベートのお前を見るのも目的のひとつだ。モルモットの観察的なやつと一緒だと思ってくれていい」
「ひ、ひど……! 私をモルモット扱いするなんて!」
思わず口ごたえすると、彼はよけいに満足そうに笑った。
(まぁ社長もこう言ってくれてることだし。せっかく美味しいお店に来てるのに、堅苦しいのもなんだよね)
そう思い直した私は、わずかに残ったオードブルのを口に含め思わず顔をほころばせた。
「うん、とっても美味しいです社長……私、鴨肉大好きなんですよ」

