俺様社長は奥手な秘書の初めてを奪う

『俺は今日のメイクの方が好きだな、結城。わざわざ地味にする必要はない』

先日のラウンジで、社長が私に放った一言。
あれはいったいなんだったんだろう。

(色情を向けるなとか言うくせに、社長の距離感が近すぎて、仕事がやりにくいんだよなぁ……)

今までそんなことは一切なかったのに、今さらなぜ?

とはいえ、私の動揺する顔が見たいからとか、怒ったりするのが見たいからとか……きっと性格の悪い理由だとは思うので、これまで以上に毅然な態度をとるようにはしている。失礼のない程度に……。

(はぁぁ『藤堂快』は私の長年の憧れの人に変わりないし、ドキドキしちゃうのがすごく悔しいなぁ)

テーブルにメイク道具を広げた私は、知らず知らずにいつもより赤みの強いリップを手に取っていた。

「いや、ないない……! 芽衣、しっかりして」

(社長の気まぐれに動揺しない。私は秘書に徹する。
じゃないと私がこの個人秘書に選ばれた意味がまったくない)

私がどれだけ彼にあこがれを抱いていても、そばにいられる条件は『従順秘書をまっとうする』、その一択しか残されていないのだ。

そう思い直した私は、すぐにオークル色の控えめなリップを手に取ったのだった。