俺様社長は奥手な秘書の初めてを奪う

「ああ」

それまで笑顔一つ見せなかった藤堂快はわずかに口角を上げ、楽し気に目を細めた。
それだけで心臓がギリギリと痛む。

「では、あなたにとって家具とはなんですか?」

「えっ……」

その核心を突く質問にドキッと心臓が跳ねる。

他の面接官に志望動機を聞かれた際に『Berry.By.KAI』への私のただならぬ愛を伝えたばかりだ。
家具の質問が飛んでくるなんてことは一切頭になかった。

(なんて、答えよう……?)

「私にとって『家具』は、物心ついた時から1番身近にあるもの……です」

実家が家具屋である以上、本当にそれに以外言えることがない。

「へー、一見ありきたりな答えだが初めてそのような回答を聞いた。詳しくその意図を聞かせてほしい」

「それは……」

とっさに実家が『結城家具』だということが就職に不利になると踏んだ私は、ほかの理由はないかと遠い記憶を遡った。

頭の中で描かれた映像は、若かりし日の従業員であった母親や父親が、
買い物にきた家族に一生懸命家具の説明をしている姿だ。
私は店の椅子で一人本を渡されて、ほったらかしにされていたっけ。
椅子からその家族の姿を見ながら、幸せそうに微笑んでいる同い年くらいの女の子が羨ましく感じたんだった。

でも漠然と、お父さんやお母さん、そしておじいちゃんがやっていることは『いいこと』なんだと思ったのだ。

「……当たり前にそこに存在して、家族を繋いでくれる。温かい気持ちにしてくれる。幸せな生活を想像させてくれる。そんな身近な存在ですね」

「なるほど」

特に間を開けることなく、藤堂快は淡々と答える。

「ありがとう、君のことは十分分かった」

「は、はい」

扉を閉める直前に見えた藤堂快はにっこりと笑って私を見つめていた。

(もしかして私……受かっちゃった?)