「頼んだ」

清々しい笑顔でそう言ったおじいちゃんは、ふいに私に視線を送る。
その瞳は見たこともないくらい穏やかで、逆に緊張が走ってきて……。

(おじいちゃん……?)

「芽衣。わしはずーーーーーーーっとお前がこの家の中で一番出来がいいと思っとるんだから、これからは子会社としてしっかり結城家具を守っていってくれ! 守と真美子も疲れているんだから力を貸してやるんだぞ」

「……っ、うん! 分かった」

おじいちゃんの𠮟咤激励に、俄然やる気が奮い立たされる。

「……じゃあ、出よう」
「うん」





私たちは笑顔でおじいちゃんの部屋を後にし、病院の廊下を歩き始めた。

「芽衣」

名前を呼ばれた直後、大きな手に優しく右手を包み込まれる。
はっとするような彼の熱い体温に、心臓が跳ね上がった。

「快、どうかした?」

振り返ると、彼は幸せそうな笑顔で私の瞳の奥を見つめていた。

「……いや、もう今までのように一人で頑張らなくていいと伝えたくて。
これから俺の秘書じゃなく妻になるんだから、困ったことがあればなんでも言ってくれ。
それで……二人でいる時はただただ甘えてろ」

「⁉ はい……! そうさせてもらいます」

嬉しい命令に、とっさに敬語が出る。
と、そんな私を見て彼はいつもの様にいたずらっぽく口角を上げた。


(私……本当に快と、ずっと一緒にいれるんだ。不可能を可能に変えることができたんだな)

2人の間で固く握られた手を見つめながら、しみじみと幸せを感じる。

(快とならどんなことでもできちゃう気がする。今までもそうだったし、これからもずっと……ね)





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