先に、行って下さい……。
遠い昔に華さんにそう言った。
船が出向する音を聞きながら、私は波立ったセーヌ川をただただ見つめていた。
胸が痛んで『彼』のことを思い出すのが辛い。
涙も出ない。
ピリリリリ! ピリリリリ!
呼び出しがかかる。
だけど私は初めて、それに歯向かった。
「藤堂快、さよなら……」
もう一緒にはいられない。
始めから、私が彼と結ばれることはない――だって私は『結城家具の娘』なんだから……。
(分かっていたけど、一瞬でも夢を見たかったんだ)
一度でも好きと言ってもらえたら幸せだったけど、今はそれすらも辛くなりそうだ。
人を傷つけて得るものに、喜びを感じる気がしない。
「ようやく諦めがついたよ」
(藤堂快の秘書を離れる……)

