ここまで言い切られたら、私は頷くしかない。

(これは社長命令だ……)

「変な空気をわざわざ作るとか幼稚な真似は禁止な。いいものが作れなくなるだけだ」

社長はそう言って、自分の荷物を手早くまとめる。
彼は部屋を出ていく際に、すれ違いざま私に微笑みかけた。

「パリに連れていくんだから辞めるなよ」

私にしか聞こえない声で告げられ、鼓動の音が速くなっていく。
彼がいなくなった部屋は、重苦しい雰囲気が漂っている。
絶対に私の疑念が全く晴れていないからだ。

(あの言い方は社長、本気で私を連れてく気だ)

気まずさを感じながら部屋から出ようとすると、ポンッと勢いよく肩を叩かれた。
振り返るとにっこりと笑顔を浮かべたルイさんが立っていて……。

「快、芽衣ちゃんのこと相当好きだね。ただ、華と一緒にパリはちょっと心配だな」
「どいてよ!」

冷たい声にハッとした瞬間、思いきり華さんが肩にぶつかってくる。
彼女は苛立った態度を隠さないまま、ヒールをツカツカと打ち鳴らしながら部屋を出ていった。

(華さん、やっぱりめちゃくちゃ怒ってる)

彼女が噂を広めた張本人だろうから、気分が良くないに決まってる。
重たい気持ちで彼女を見送っていると、ルイさんがコソッと私に耳打ちしてきた。

「快と付き合ってたから、華はジェラシーを感じてるんだと思うよ」