弓木くんが厳しいのは、口調がそう “聞こえる” だけで、進む速度も問題の難易度も、わたしのペースにぴったりと合わせてくれている。
なかなか理解できないところを 「どうしてそうなるのっ?」とだだをこねる3歳児みたいに、繰り返し何度もたずねても、呆れたりしないで、根気強く付き合ってくれる。
ちゃんと解けたときには、惜しみなく褒めてくれるアメとムチの使い手だし、デフォルトが厳しい分、褒められると嬉しい。
「点Pってなんですぐ動きたがるのかな……」
「それは俺じゃなくて点Pに聞いてくれない?」
「うあ……。お願いだからわたしのために、じっとしててよお〜〜〜」
「ふはっ」
うなだれたわたしと、くくくと体を震わせた弓木くんの額が、こつん、とふいにぶつかる。
痛くはない。
けれど、思っていたより距離が近いことに気づいてしまって、バクン、と心臓が跳ねる。
あれ、なんだか弓木くんの目がうまく見れない……。
「……中瀬、ここ、等号じゃなくて不等号」
「あ、ほんとだ、うっかり────」
ぱ、とノートから視線を上げると至近距離で弓木くんと目が合った。
びっくりしてのけぞると、メガネの奥の瞳がぐらっと揺れた、ように見えて。
こくん、と唾を飲み下すと。



