一度も傷つかなかった。

傷つけられそうになったのは、ユウジくんに会ったときだけで、でもそのときでさえも、弓木くんがいてくれたから。



「それがふつうのデートだよ」

「そうなの? じゃあ、わたし、初デートかもしれない」

「ふは、うん。中瀬の初デートは、俺な」



弓木くんが屈託なく笑う。

その笑顔につられて、わたしも思わず頬をゆるめる、と。



「もう土偶でも埴輪でもなくなったな」



……なんて。



「なんで今そのワード引っ張りだしてくるのっ?! やめてよ!」

「べつに悪口じゃないし」

「立派な悪口だよ!? ていうか埴輪になったのは誰のせいだと────あ」



口がすべった。

弓木くんがきょとんとしている。


いいや、この際、ぜんぶ言ってしまえ。



「今日、埴輪だったのは弓木くんのせいなんだもん! 昨日弓木くんがわたしのこと好きだとか付き合うとか彼女だとか……! いろいろ言うせいで一晩中弓木くんのことばっかり頭のなかでぐるぐるぐるぐる考えて、眠れなかったの……っ」

「は」



なぜか、固まった弓木くん。

ちょうど駅の改札の前。



弓木くんと繋がった手を今度こそ、離して。

呆然としている弓木くんに手をふって、改札へ飛びこんだ。



「じゃあねっ、弓木くん、ばいばい! また明日ねっ」




𓐍
𓏸



ガタンゴトン、帰りの電車に揺られながら考える。


『なんの魅力もねーな』


ユウジくんの言うとおりだ。わたしには否定できない、けれど。


『信じるか信じないかは中瀬次第』



もし、弓木くんのあれが冗談じゃなかったとしたら────弓木くんは、こんなわたしの、いったいどこが好きなんだろう。