千隼くん、怒って……?
どうして、なんで、と戸惑うわたしの手首を千隼くんが強引に掴む。今までにない強い力で。
「い……っ」
痛い。
ぎり、と千隼くんの指が皮膚に食いこむ。
けれど、千隼くんはお構いなしにわたしを立ち上がらせて、すたすたとどこかに向かって歩きはじめる。
「ちょっ、待って千隼くん、どこ行くの? もう昼休み終わっちゃ────」
「黙って」
「!」
余裕なくわたしの言葉を遮った千隼くんは、一度も振り向かずまっすぐ廊下を突き進んだかと思えば、空き教室の扉を勢いよく開けて、とん、とわたしの背中を押す。
「千隼く……」
千隼くんは後ろ手に扉を閉めて、わたしを閉じこめる。
空き教室にふたりきり。
千隼くんは今まで見たことのない顔をしていた。
怒りとも、焦りとも、悲しみともいえないような、苦しげな。
「……なんで、このかから逢見の匂いすんの」



