「っ、はい?」
「じゃないと当て馬の俺が浮かばれないからねー」
「無茶言わないでよ!」
「脈死んでる俺でも告白できたんだから、このちゃんも頑張ってくれないとさー」
「うっ」
やっぱり逢見くんは逢見くんだ。
じとっと逢見くんをにらんでいると、逢見くんはポケットからすっと何かを取りだした。小瓶のようなもの。
「おまじない、かけてあげよーか」
「おまじないっ?」
「千隼への告白が成功するおまじない」
「ちょっ、まだ告白するなんてひとことも!」
有無を言わせず、逢見くんは小瓶をこちらに向けてくる。
容赦なく、プシュッとなにかを吹きかけてきた。
ミストのようななにかが、頭の上から降りそそぐ。
「な、なにこれ……」
「香水。いー匂いでしょ」
「……言われてみれば?」
ふわっとした甘い香りに包まれる。
すんすんと嗅いでみると、甘さの奥に大人っぽいピリ辛スパイスがひそんでいる。
独特だけど、たしかにいい匂いだ。
「イイ女はいい香りがするって言うし、千隼もころっと落ちるんじゃない?」
「……!」
ぱ、と顔を上げると逢見くんはふっと笑う。
案外、逢見くんは、本気で背中を押してくれているのかもしれない。
「あ、ありがとう」
「ふは、俺優しいからねー」
これで最後だ、とでも言うように逢見くんの手のひらがそっとわたしの頭にふれた。
「じゃー頑張ってー」
ひらひらと手を振った逢見くんはくるりと背中を向ける。
「……ま、俺は優しくなんて1ミリもできない悪いヤツなんだけど。てゆーか、普通にむかつくしね、結局あいつに負けたわけだし」
意地悪しちゃってごめんね、と呟いた逢見くんの声は、反対方向に歩きはじめたわたしの耳には届かない。
そんな逢見くんの表情が思いのほか清々しかったことは、わたしはもちろん、逢見くん自身も気づかない、神のみぞ知ることだった。



