「ありがとう、逢見くんの分までしっかり味わう!」

「うん。俺のこと、ちょっとは好きになった?」

「へっ?!」

「好感度上がったなら、態度で示してくれてもいーんだよ、ほら」




冗談めかして言いつつ、ハグをほのめかすように両腕を広げた逢見くん。


たじろぐわたし、ジリジリ迫ってくる逢見くん……の間にしびれをきかせて割って入ったみかちゃん。




「はいストップ。このから離れて!」

「ふは、相変わらずこのちゃんのセコムだねー」

「当たり前でしょ。遊びでそういうことするヤツには、私の大切なこのに、指一本もふれさせたくないの!」




みかちゃんの言葉を受けて「……遊びじゃないんだけどな」とこぼした逢見くんの声は、ちょうど鳴り響いた予鈴の音にかき消される。




「やっば、遅刻する! 走るよ!」

「えっ、ちょ」




目にも止まらぬ速度でスタートダッシュを決めたみかちゃん。

あわててその背中を追おうとすると、その場に引き止められた。


わたしの腕をぐいと引いたのは。




「逢見くん……?」

「あのさ、このちゃんが今日誕生日だって……あいつは知ってるの」

「えーと、あいつって……」

「千隼」




千隼くん?

首を傾げて考える。




「ううん。知らないはずだけど……」




千隼くんと誕生日の話をしたこと、ないもん。
だから、知らないはず。

わたしの答えを聞いて、逢見くんは少し勝ち誇った顔をした。




「へー、ちょっと優越感」

「……?」

「ごめん引き止めて。早く教室行かないと────」




と、その瞬間。

無慈悲にもチャイムが鳴り響き、わたしと逢見くんの遅刻は確定してしまったのであった。