「はー……このかに何もなくてよかった」
安心したように深く息をついた千隼くん。
そういえば、千隼くんって。
「あの、弓木くんは、どうしてここに」
「あー……」
千隼くんがくしゃりと自分の髪を乱した。
指のすきまからさらりとこぼれた黒髪が、太陽のひかりにきらめく。
「昇降口にこのかのローファーが落ちてた。んで、何となく校舎裏を見に行ったらたまたま────」
「たまたま?」
「……うそ」
嘘、って。
「このかのこと探してた。ローファーが落ちてたのは、ほんと。それ見つけて、嫌な予感して、走り回ってやっと見つけた。……間に合ってよかった、ほんと」
はあ、と千隼くんが息をつく。
そういえば息が荒いような気がしたのも、前髪が汗で少しはりついていたのも、……走って駆けつけて、くれたから。
きゅ、と胸が甘く疼く。
「わたしのこと探してたってことは、なにか用事が……?」
「ねえよ」
「え」
「もう探しグセがついてんの。四六時中、気づいたらこのかのことばっか────あーもう、ダサいからこの話はなし」
ぴしゃりと遮った千隼くんは。
今度はわたしをとがめるような口調で。
「つーか、さっきから気になってたんだけど」



