ああ、これは、絶対痛いやつ────なんて来たるこぶしに備えて、きゅっと目をつむる。
と、パシッと乾いた音が顔のすぐ近くで響いて。
代わりに、覚悟した痛みはいつまで経ってもやってこなかった。
「────いい加減にするのはどっちだよ」
低く冷たい声。
同時に、背後からぎゅっと引き寄せられた。
背中にふれた体温のデジャヴに閉じた目をはっと開く。
「っ、弓木くん!?」
どうして、ここに。
人気のない校舎裏、通りがかりで……なんて絶対ありえない。
唖然とするわたしをよそに、千隼くんはサイドテール先輩の握りこぶしを手のひらで正面から受けとめている。
千隼くんが止めてくれなければ、あのこぶしは確実にわたしの顔面に衝突していた。



