「だめ?」

「や、弓木くんがいいなら……いいんだけど」



もったいないんじゃないかなって思った。

だけど、弓木くんは愉しそうに口角を上げる。


はて、と首を傾げると、予想しなかった方向からの “要望” が飛んできた。



「名前、呼んでよ」

「へ……?」



変化球は受けとめきれず、キャッチャーミットからこぼれ落ちる。

目をしぱしぱと瞬かせたのち、わたしが出した答えは。



「 “弓木くん” ?」

「そうじゃなくて」

「と言いますと」

「下の名前で呼んでよ、俺のこと」



“下の名前で呼んでほしい”



「それが、弓木くんの望みなの?」

「そう」



そんな簡単なことでいいの? と拍子ぬけする。

名前を呼ぶだけなんて、朝飯前だ。


そう思ったのに。


わたしをじっと見つめる弓木くんの瞳に、期待の色がしっかりにじんでいるのが見えて、とたんに緊張がぐっと押し寄せてくる。