𓐍
𓏸




「ゆ、夢だったのかもしれない……」



翌朝。


遅刻ギリギリに登校してきたわたしは、教室の扉の前で頭を抱えていた。昨日のは、やっぱり、夢だったのかもしれない。




『中瀬は今から俺の彼女、な』




うーん、弓木くんがそんなこと言うわけないに100票!



もしかして失恋のショックでありもしない幻覚を生みだしてしまったとか……。

いや、ありえるな。

恋愛に飢えすぎて、ついに弓木くんを脳内で都合よく錬成してしまった可能性は否めない。



ともかく、昨日の夜はまったく眠れなかった。


弓木くんのことを考えすぎて目がガンガンに冴えてしまった。



そのせいで遅刻ギリギリダッシュをすることになってしまったし、おまけに目の下のクマがひどいことに……。




「中瀬、教室の前で何やってんだ」

「ひゃ! いやこれはですね、ちょこっと、精神統一を……なむなむ」

「……? チャイム鳴るぞ、はやく入れー」




背後からやってきた担任のノブナガに諭されて、教室に飛びこんだ。

ちなみに、ノブナガはみんなで勝手につけたニックネーム。織田先生だから。




「ゆ、ゆゆゆゆゆ」




窓側、いちばんうしろの席。



となりの席の弓木くんは、いつも通り気だるげな顔をして座っている。

今日も今日とて顔がいい。

クラスの女の子たちの視線がちらちら集まってくるのを感じる。



そんな弓木くんに挙動不審全開で声をかける。



「中瀬、おはよ」

「ゆゆ、弓木くん、本日はおひがらもよくたいへんすばらしい日でっ」

「……なにキョドってんの」

「!」




やっぱり夢だったんだー!!!