優は今、男子の見た目をしているのに女子の制服を着ている。映画館には多くの人がいる。同じ学校の人ならば、優の抱える事情を知っているから何も言わない。しかし、今は大勢の知らない人がいるのだ。好奇な目で優が見られているということに、揚羽たちはすぐに気付いた。

「あの人って男?女?」

「ええ〜、声低いし男でしょ?何で女の子の制服着てるの?」

「女装してる人がいるよ!」

「いや、どこから見ても男なんだけど」

ヒソヒソとそんな話をしているのが聞こえ、揚羽はうんざりしてしまう。優の心が女性になった時、いつも遊びに行けばこんな風に心ない言葉を言われてしまう。人の事情を知らないくせに、と揚羽は言いたくなる気持ちを堪えた。

揚羽は幼い頃から人の目が気になり、内気で本当の自分を見せることが苦手だった。だから、友達と呼べる存在もほとんどおらず、高校生になった時も三年間ずっと教室の隅でひっそりと過ごすものなのだと思っていた。あの日までは。