「みなさんこんにちは!」

「ようこそ、リナちゃん!」

 リナローズはあっという間に町の人々に囲まれてしまった。みながリナローズと親しげに話し、来訪を歓迎している。しかも人々はノルツにまで好意的に話しかけるのだ。

「新しい領主様! ようこそおいで下さいました」

「遠いところ、良く来て下さいました! あたしらは領主様を歓迎しますよ」

 わからないことばかりだ。代わる代わる声をかける町の人間は口々にリナローズとノルツを祝福していく。盛大な歓迎ムードだった。
 活気がないと言われていたはずの町も賑わっているように感じる。これでは王都と遜色のない賑わいだ。

「奥様! お花飾りをどうぞ! 花束も、奥様のためにみんなで用意したんです」

「まあ! 素敵なプレゼントをありがとうございます」

 つい先日まで侯爵令嬢であったはずのリナローズは庶民と同じ目線で喜びを分かち合っていた。
 花冠を乗せたリナローズはまるで花嫁のようだ。

「ほら、旦那さんは奥さんを褒めなきゃ! 綺麗だろ?」

「なっ!」

 強く背中を押されるが、なかなか足が前に進まない。柄にもなく、あの輪の中心で祝福される美しい人の傍に行っても許されるのか。そんなことを考えては躊躇いを覚えた。先ほどからリナローズを遠く感じている。

「貴方がたは、彼女と親しいのか?」

「ええ。リナちゃんはもうずっと前からこの町に顔を出してくれてね。あたしたちと一緒に町の運営を手伝ってくれているのよ」

「なんだと!?」

「あの子がいつも言ってたわ。私の旦那様は素敵な人だから、きっとこの町を今よりもっと良くしてくれる。自分はその手伝いをしに来たってね」

 自分の知らないところでリナローズは奮闘していたらしい。その事実を知ってノルツはますますリナローズが知らない人のように思えてきた。
 するとリナローズは自らノルツの隣へとやってきて腕を引く。

「ま、待ってくれ。君は、一体……」

「ノルツ様。わたくしはしがない侯爵令嬢。貴方を王にすることは叶いませんでした。しがない侯爵令嬢に出来るのは、夫の追放に備えて準備をしておくことくらいなのです。誰にもわたくしたちを悪役夫婦とは呼ばせません」

 孤独にはさせないと、そう言ってノルツを輪の中心へと導いた。

 愛されないことを嘆くのではなく、思いきりこの人を愛したい。それが許される関係にあるのだから、この心を余すことなく伝え、尽くしたい。
 たとえこの運命で愛されなかくてもかまわない。傍にいられるだけで幸せだとリナローズは思った。あの時ロザリーに告げた言葉に嘘はないのだと。