二重人格者の初恋

『ヒカルさんからの連絡を待つ事しか出来ない。自分からは何もできない状態ほど辛いものはないな。』
俺は、ヒカルさんと初めて出会った公園に自然と足を運んでいた。

もしかしたら会えるんじゃないかという淡い期待を込めて公園内を歩き回ったが、残念ながらそこにヒカルさんの姿はなかった。

『絵を描こう。』
俺は頭の中で鮮明に思い出せるヒカルさんをスケッチブックに次々と描いていった。何枚描いたか分からないくらい描き、そろそろ帰ろうとしていた時、スマホが鳴った。
画面には、ヒカルさんと表示されていた。

「もしもし?」
「もしもし、今日はヒロシさんですよね?」
「はい、そうです。」

「良かった。実は昨日、サトシさんからヒロシさんが私の絵を描いていると聞いて、一度見せてもらえないかと思って連絡しました。」

「それは全然、大丈夫です。むしろ、ぜひヒカルさんに見てもらいたいくらいです。」
「じゃあ、今日見せて欲しいんですが。」

「今日ですか?」
「都合悪いですか?」
「いや、大丈夫ですよ。ただ、絵がそれなりに大きいので持っていくのが大変だなって思って。」

「それなら私がヒロシさんの家に行きます。住所を教えてもらっても良いですか?」
俺は住所を伝え電話を切ると、急いで家へと向かった。


ピンポーン。
チャイムが鳴り、インターホンにヒカルさんの姿が映った。
「今、開けます。」

つい先日会ったばかりだったが、ヒカルさんの顔をもう一度見ることが出来ただけで俺は幸せに満たされていた。

「どうぞ。」
「お邪魔します。」
ヒカルさんは俺の家に興味津々といった感じだった。

「すごい家だね。かなり広いのに掃除が行き届いているのもすごい。」
ヒカルさんは家中をキョロキョロとしていた。
「掃除はサトシがやってくれているんだ。」
「そうなんだ。サトシさんは綺麗好きなんだね、なんか納得できるかも。」

「そういえば、昨日サトシと会ってるんだよね。」
「うん、少ししか話してないけど。」
「そっか。」
俺はサトシがヒカルさんと楽しそうに話している姿を想像し、ヤキモチを妬いていた。

「早くヒロシさんが描いてくれた私の絵が見たいなー。」
ヒカルさんは俺の気持ちを察したのか、話題を変えてくれた。
「こっちだよ。」
俺は自分のアトリエへと案内した。アトリエに入った瞬間、ヒカルさんは言葉を失っている様子だった。

「すごいね、このアトリエ。全部、ヒロシさんが描いた絵?」
「うん。サトシは絵描かないからね。」

「これもあれも、SNSで見たことある絵ばっかり。ずっと、ヒロシさんのSNSを見てた時から、いつかこの絵の現物を見てみたいって思ってたんだよね。夢みたい。」
ヒカルさんはアトリエに点在している数々の絵を目に焼き付けるように見て回っていた。

どれくらいの時間が経っただろうか。何周も部屋の中を見て回ったあと、ヒカルさんは俺のことを真っ直ぐに見つめてきた。

そして、

「やっぱり私はヒロシさんのことが好きです。あなたが二重人格というならそれでも良い。私はヒロシさんと一緒にいたい。」
と告白してきた。

俺はあまりに唐突で突然だったため、数秒間フリーズしたあと、ふと我に返り、ヒカルさんを思いきり抱きしめて、
「俺もヒカルさんが好きだよ。」
と耳打ちした。