二重人格者の初恋

『ヒロシさんが二重人格。
突拍子もないことをカミングアウトされた私はどうすればいい?』
正直、バイトどころではないが、当欠すれば周りに迷惑をかけてしまうことが出来ないと思った私は、その日のバイトはこれまでで一番仕事に集中して働いた。

何かに集中していないと、先ほどのことばかりを考えてしまいそうになるから。


途中、普段と違う私の雰囲気を察してか、店長やバイトメンバーが心配して声を掛けてくれた。口先だけでは『大丈夫です。』と答えていたが、恐らく大丈夫ではないことは全員に伝わっていたと思う。

バイトも終わり、一人で家路につきながらこれからのことを考えていた。

ヒロシさんのことは尊敬しているし憧れもある。そういった感情を抱きながら、私の絵を褒めてくれた彼のことを好きになるのに時間は掛からなかったし、今でも彼のことは好きな気持ちは変わらない。


しかし、二重人格である彼と付き合っていく上で大変なことも数多くあるだろうと思っている。

例えば、この前みたいにヒロシさんとは違う別人格だったとしても、自分の好きな人と外見上は全く同じ人が、女性と二人きりで楽しそうに会話するところを目撃したり、他の女性を抱きしめている想像をしたくないのに、無意識にしてしまう可能性もある。

そうなった時、誰が悪いわけでもないし、ヒロシさんが浮気をしているわけではない事は分かっている。

でも、もしヒロシさんが浮気をしていたとしても、彼には二重人格という最強の切り札で言い逃れが出来てしまう。

その状態を知っている上で付き合うことを決めたのは私だから、もし【二重人格】という最強のキラーワードを言われても怒っていたら、悪いのは私になるだろう。理解ない女だと世間から言われるのがオチだ。

そんなことを思い、心のどこかで疑い続けながら付き合うことは果たして幸せなのだろうか?

結論が出そうにもないと感じた私は、もらった名刺を確認した。