二重人格者の初恋

「田畑先生?でしたっけ。二重人格であると仮定しての話なんですが、ヒロシさんともう一つの人格の人は、どちらが主の人格になるのでしょうか?

漫画や映画、小説とかでは主となる人格があって、何かあった時や入れ替わるキッカケがあって別人格が出てくるといった表現がよくされると思うのですが。」


「先生、それ俺もずっと気になっていたんです。俺とサトシ、この身体はどっちの人格のものだったんですか?」

ヒロシとヒカルさんを交互にみたあと、先生は先ほどヒロシが持って来た水を一気に飲み干した。そして、大きく深呼吸を一回してから口を開いた。

「それが私にも分からないんだよ、ヒロシくん。」
「え?なんで?」
「君たちはある夜、急患として運ばれて来たらしい。どうやら、夜中に交通事故にあったらしいよ。そこで緊急手術を行い、何とか一命を取り留めたんだが、意識が戻るまで2週間近く掛かった。

意識を取り戻した時に出ていた人格はサトシくんだった。しかし、翌日に目を覚ますと、今度はヒロシくん、君の人格が出ていたらしい。その時は、当時の担当医や看護師たちは、事故のショックでパニックになっているんじゃないかと想定した。

しかし、それから一ヶ月近く経過しても、毎日変わっている人格を見て、担当医が『二重人格なのでは?』と思い、私のところに君たちが来たんだ。

それからは君たちの主治医として、さっきあなたが言ってくれたように主の人格がどちらなのか?どういうキッカケで人格が入れ替わるのかを検証していったが、今もはっきりとしたことは分かっていない。

分かっているのは、君たちは毎日交互に現れるということだけ。睡眠がスイッチかとも思ったことはあるが、昼寝をしても人格が変わらないところを見ると、違うような気がしている。

ご両親や親族に連絡を取ろうと思っても、どちらも事故以降の記憶が一切ないから家族がいるのかも分からない。それに、急患で運ばれてきた時、身分証明書なども一切何も持っていなかったから。

仕事場から捜索願が出ていることもないようなので、君たちの過去を知るものは誰一人、現時点ではいないんだ。」

「じゃあ、ヒロシさんは天涯孤独の人生を歩んでいたかもしれないってことですか?」
「あぁ、その可能性はあるね。どこで生まれて、どこに住んでいて、どんな生活を送っていたのかは誰にも分からない。」
「今はどうやって暮らしているんですか?」

「当然、身分証も何もないから家を借りることすら出来ない。だから、ヒロシくんたちには私の研究を手伝ってもらうということで、病院が用意した家に住んでもらい、協力費用を支払っているんだ。

まぁ、ヒロシくんは絵の才能があるようだから、もしかしたら絵を買ってもらっているなんてこともあるかもしれないが。」

「絵はSNSにアップしているだけで、売ったことはありません。メッセージとかでたまに絵を買いたいと言っていただける方はいますが、いくらにすれば良いか分からず結局、売らずに終わっています。」


「つまり、もしかしたらヒロシさんは超善人だったかもしれないし、超悪人だったかもしれないってこともあるんですよね?」
「まぁ、過去が分からない以上は何とも言えないかな。」
「過去の記憶が戻ることってありますか?」
「可能性はあるだろうね。」

ヒカルさんは一瞬質問しようかどうか躊躇い(ためらい)を見せたあと、
「ヒロシさんかもう一人の人格、どちらかが消えてしまう可能性はありますか?」
と質問した。

先生は、どう回答しようか迷い俺の方に目を配った。なので、私は『何でも答えてください』という意味を込めて頷いた。
「消える可能性も0じゃない。この二重人格が生まれつきなのか、事故によるものなのか、発生したキッカケが分からないから。」
「そうなんですか。」
ヒカルさんは悲しそうな表情を浮かべていた。