二重人格者の初恋

そのあとはエリカさんと楽しく食事をし、解散した。
帰り道、自宅に向けて歩いていると、スマホが鳴った。画面には、『ヒカルさん』という名前が表示されていた。
『え?やっぱりあのお店にいたのはヒカルさんだったのか?』
私の頭の中を最悪の想像が駆け巡った。

家に着いて、一旦冷静になろうと思い、お風呂に浸かった。お風呂から上がりスマホの電源を入れると着信が3件に増えており、全てヒカルさんからだった。
『これは間違いなく、最悪の事態だな。ヒロシには伝えておかないとマズイよな。』
私は日記帳に今日起こった嘘のような本当の話を事細かに記載し、最後に『申し訳ない』と謝罪の言葉を添えておいた。


朝、日記帳を開いた俺は血の気が引いた。告白して両想いになれたと喜んだのも束の間(つかのま)、俺が一晩寝て起きたら事態が急変しているとは夢にも思わなかった。
「サトシは何も悪いことしてないんだけど。頭では分かるけど、それでも恨んでしまっている俺は小さい奴だな。」
自己嫌悪に陥りながら、ヒカルさんになんて言えば分かってもらえるか考えたが、全く良いアイデアが出てくることはなかった。

『とりあえず、電話を折り返すか。』
スマホの着信履歴から電話を掛け直すと、2コール目でヒカルさんが出た。
「もしもし、おはよう。」
「うん。」
「朝早いんだね、今日。」
「昨日、眠れなかったから。それに、あなたから電話が掛かってくるかもしれないと思って、ずっと待ってたから。」
「そうなんだ。」
爽やかで澄み切った青空とは対照的に、俺たちの間にはどんよりとした空気が流れていた。

「で、私に何か言うことない?」
「昨日、あのお店で働いていた女性って、やっぱりヒカルさん?」

「そうだよ。ヒロシさんも気付いていたんだね、やっぱり。
私が近寄った時、なんで逃げるように出て行ったの?
あの一緒にいた女性はだれ?」

「逃げたわけじゃないと思うけど。一緒にいた女性は仕事場の同僚だよ。」

「思う?ヒロシさん自身の行動なのに何で他人ごとみたいな言い方してるの?
それに同僚だったら堂々と言ってくれたら良かったじゃん。それなのに、あんな行動を取るから。あんな風に逃げられたら誰だって何かあるんじゃないかって疑っちゃうよ。」

「ごめん。でも、本当にあの女性は同僚であって、別にやましい関係でもないんだ。」
「同僚であっても、二人きりでご飯食べに行くってことは私はして欲しくない。」
「分かった。もう行かないって約束する。」
「約束破ったら、許さないからね。」
「あぁ、絶対に破らない。俺が好きなのはヒカルさんだけだから。」

数秒間、気まずい沈黙が流れた。
「ありがとう。じゃあ、私は今から寝るね。さすがに一晩中ずっと起きていたから眠いや。」
「おやすみ。」
「14時にモーニングじゃないけど電話してくれない?夕方からまたバイトだから。」
「分かった。14時に電話する。」
「おやすみ、ヒロシさん。」

「ふぅー。」
俺は大きく息を吐いた。とりあえず付き合ってすぐにスピード破局は防げたようだ。俺は急いで日記帳に
『エリカさんと二人きりでの外食や外出は禁止!!』
と見開き1ページ使って書いた。