二重人格者の初恋

『エリカさん、毎日こんな大量のデータ集計作業しているのか。』
私は頼まれた仕事をこなしながら、エリカさんの仕事ぶりに関心していた。

『ノー残業って言っていたけど、この研究所の定時って何時なんだろう?世間一般と同じように18時で良いのかな?だとしたら、あと1時間でこの仕事を終わらせる必要があるのか。』

残り時間と仕事量を考えると、普通の進め方では終わらないと思った私は、終わらせる方法を頭をフル回転させて考えた。その結果、私が退勤したあとにPCに頑張ってもらえば良いという結論を導き出し、1時間でプログラムを書くことにした。

18時になった時、エリカさんが私の所に来た。
「サトシさん、仕事終わりそうですか?」
エリカさんは心配そうに声を掛けてきた。

おそらく、エリカさん自身が終わらないであろうことは分かっているのだろう。
「すいません、あと5分待ってもらって良いですか?今、プログラムの最終テストをしていて。」

「え?あと5分で終わるの?あんなに量あったのに?」
エリカさんは一体、どんなマジックを使ったの?と聞きたそうにしているのを感じた。
「じゃあ、あと5分だけ私も仕事頑張ってくるね。」
エリカさんは席に戻って行った。

「よし、出来た!」
プログラムを書き上げ、実行ボタンを押した。するとプログラムが予定通りに動き出し、ものすごいスピードで作業を進めていった。
私はエリカさんの席に出向き、
「お待たせしました!終わりました!」
と声を掛けた。

「一体、どうやったら仕事終わらせられるの?」
エリカさんがあまりにも興味津々に聞いてきたので、私はプログラムを見せた。
「なるほどね。さすが先生が天才と評するだけあるね。これからは私専属の助手としてサポートしてほしいくらいだわ。じゃあ、いこっか!」
私たちは『お先に』と声を掛けて、研究室をあとにした。


「サトシさん、お腹減ってる?」
エリカさんは研究室を出ると縛っていた髪を解き、綺麗なロングヘアーを左右に振りながら質問してきた。私は初めて髪を下ろしたエリカさんを見て、思わず、
「エリカさん、髪下ろしても綺麗ですね。」
と聞かれていないことを口走ってしまった。

「え?」
絶対に聞こえていたと思うが、エリカさんは聞こえなかったフリをした。
「なんでもないです。お腹は減ってますね。」

「そっか。じゃあ、お肉食べに行こう!この前、ヒロシさんのデートのお店探しをしている時に、美味しそうなお店を見つけたんだ。」

「お肉良いですね!エリカさん、お肉食べるんですね。」
「食べるよ。この前、ヒロシさんにも同じように驚かれたけど、あなた達の中で女性は何を食べているイメージなの?」
エリカさんは大笑いしていた。

「ヒロシも同じこと言ってたんですか。やっぱり似た者同士なんですかね、私たち。」
「うーん、どうだろ?私からしたら、サトシさんとヒロシさんが似ている所って全く見当たらないけど?」
「そんなに似てないですか?」
「うん、まっっったく似てない。」
エリカさんとの会話はテンポよく、私にとってとても心地よいものだった。


「あっ、ここだ!」
目的のお店に到着すると、エリカさんに引っ張られる形でお店へ入っていった。
「いらっしゃいませ。」
私はてっきり高級店のような場所に連れてこられると思っていたが、明るく活気がある普通の飲食店のようだった。

「2名様でしょうか?」
店員さんの誘導され私たちは席に通された。

「サトシさん、何飲みます?」
「うーん、じゃあビールを飲んでみます。」
「そういえば、ヒロシさんもお酒飲むの初めてって前言ってたけど、サトシさんも飲んだことない?」
「はい、無いです。でも、ヒロシが飲めたってことは身体的には飲めるはずなので、私もチャレンジしてみようかと。」

「無理にお酒飲まなくても大丈夫だよ?」
「大丈夫です。飲んでみたいので。」
「じゃあ、私もビールにしよっと。食事は私が適当に選んで良い?」
「私もメニュー見て良いですか?」

「良いけど。そういえば、サトシさんはヒロシさんと違って料理するんだっけ?」
「はい、ヒロシの分も作ってあげてます。」
「じゃあ、ここの料理もサトシさんに選んでもらおっかな。」
「分かりました。どれも美味しそうですね。」
一通りメニューを見終わり、注文しようと店内を見渡した時、見たことあるような顔の人がいることに気付いた。

「あの、エリカさん。私から見て4時の方向にいる女性の店員さん、見たことありませんか?」
「え?どれどれ?」
4時の方向を見たエリカさんは、『あっ!』と驚いたような顔をしていた。

「うん、見たことある。あの子って、ヒロシさんが描いた絵の女性にそっくりだよね。」
「やっぱり。私もそうじゃないかなぁって思ったんですけど、似てますよね。」
「この様子をあの子が見たら、ヒロシさんが浮気してるって思っちゃうかも。」
エリカさんから指摘され、私は『?』と頭に『はてな』が浮かんでいた。

「サトシさん、あなたの顔とヒロシさんの顔は全く同じなんですよ。服装こそ違いますが、体型だって髪の毛の長さだって同じ。私が彼女だとして、この光景を見たら、普通に浮気を疑いますよ。」
「そうか。中身が違うけど外見は私たちは全く同じなんですよね。当たり前すぎて忘れてました。どうしよう。お店変えた方が良いですよね?」
「そうですね。でも、席に座っちゃったのに何も注文せずに出て行くのもお店に悪いですし。」
二人でどうやってこの緊急事態を回避すべきかを考えていたが、妙案がすぐに浮かぶことはなかった。

その時、エリカさんに似ている女性が私たちのテーブルにやってきた。
「まずい、こっちに来た。」
エリカさんが小声で私に話しかけてきた。
「どうしよう。」
私は咄嗟(とっさ)にスマホを取り出し、電話が掛かって来た演技をして席を外すことにした。

女性店員さんは私のことを一瞬見たような気がしたが、特に声を掛けられることもなく私は店外へと出て行くことに成功した。
そのまま外でエリカさんを待っていると、數十分ほど経ってお店から出てきた。

「さっきの女性店員さん、何か言ってましたか?」
「いや、何も無かったよ。多分バレていないのか、もしくは私たちの勘違いだったのかもね。」
「勘違いだったら良いんですけど。」
「まぁ、考えても仕方ないし、違うお店に行きましょ。お腹減っちゃった。」
私たちはスマホでお店を探して、肉寿司というお店を見つけて、そのお店に向かった。