二重人格者の初恋

「ヒカルさんは将来、画家になりたいの?」
俺はヒカルさんのことをもっと知りたいという気持ちが溢れていた。
「うーん、どうだろう?もちろん好きな絵を描いて生活ができるなら、それが一番なんだろうけど。常に新しい才能が生まれてくる世界に身を置き続けるってことは正直、怖いし、そこまで自信はないんだよね。

それに、私の絵はヒロシさんのように世界中の人たちから支持をされているわけでもないし。何かの賞をもらったみたいなこともない。誰かからお金を払ってでも欲しいって言われたこともないからさ。」

「そっか。ちなみに、ヒカルさんは自分が書く絵は好き?」
俺は素朴な疑問をぶつけてみた。
「どうだろ?自分が描いた絵が好きなどうかか。これまで一度も考えたことなかったし、聞かれたこともなかったな。ヒロシさんは自分の絵好きなの?」
「好きだよ。」
俺は即答した。

「即答できるってすごいな。どうしたら、自分の絵が好きって、ヒロシさんのように即答できるようになれるかな?」
「うーん、どうしたらか。俺が自分の絵を好きな理由は、『自分の生きている証を確かめられるから』、かな。」
「生きている証?」
ヒカルさんの頭にクエッションマークが浮かんでいる表情をしていた。

「そう、証。自分が生きている証を自分にも他人にも認識してもらえるものって、自分の内から出たものでしかないと思ってて。人によっては小説だったり、映画だったり、SNSでの発言だったり。

おれの場合は、それがたまたま絵だったってだけで。

自分が今、この瞬間に感じていたことが表現されている絵って自分の分身って感覚があって。自分の分身だから、当然可愛く見える。そんな可愛いものを好きにならないって方が無理じゃない?」

「そういうものなのかなー?20年ちょっとしか生きていない私には、たどり着けない考え方って感じがする。」

「年齢というか人生経験の長さが解決してくれることもあるからね。ただ、俺がもし画家から絵を買うとしたら、その絵が好きすぎて本当は手放したくないけど、生活する為にはお金が必要だから泣く泣く、その絵を売ってくれるような画家から絵を買いたいと思うかな。

画家で生きていける人って、もしかしたら、そういった考え方をする人なのかもね。」

「お金を積まれても売りたくない自分の絵か。課題のためじゃなくて、自分の為だけに絵を描いてみたら、これまで見えてなかった何かが私にも見えるのかな。」

「それはやってみないと分からないけど、やってみる価値はあると思うよ。」

ヒカルさんはグラスに半分くらい残っていたドリンクをグイッと飲み干すと、
「私、やってみます!ヒロシさんに会えて本当に良かった。ありがとうございます!」
ヒカルさんは深々と俺に頭を下げた。