でも、それはなかなか声にならない。常にかっこよくありたいのに、それがどうにも、とくにツキの前だと難しい。


「王子さまと、結婚するの?」


なるべく、興味がなさそうに聞こえてほしい。興味ないけど、幼なじみの話だから仕方なく聞いてあげているって思われたい。

そんなきもちを込めた震え声でたずねると、ツキはお人形みたいにこくこくと頷いた。


「そうだよ、ずっとむかしから言ってるじゃん」

「王子さまって、どこかの国の?」

「ううん、わたしだけの王子さまを見つけたいの」


どうやらツキが探しているのは、どこか遠い国のお城で暮らしてる、みんなの王子さまではないらしい。

わたしだけの、王子さま。ロマンチックを語る、ツキの眼がすきだ。そのとくべつな瞳が映す鮮やかな世界を、知りたいとおもう。

はにかんだ彼女が、王子さまのことを教えてくれる。


「わたしのことをとびきり大事にしてくれて、」

「うん」

「あいしてるよプリンセスって、毎晩ベッドで囁いてくれるようなひと」


そんな恥ずかしいことできる奴、いるかよ。ツキみたいな変人を理解してくれる奴、いるかよ。

俺以外に、いるのかよ。