深月明子は、ふわふわしている。綿あめを擬人化したようなイメージを持ってくれればよい。
ウサギみたいなツインテールの頭のなかは、たぶん、砂糖が詰まってる。おそらく脳みそは小さい。
だってほら、まともな脳みそのある人間ならば、俺という幼なじみを持っていながら見知らぬ王子さまを探したりしない。
なんだか、おもしろくない。どうせツキは、王子さまを夢に見ながら、ぼんやり待っているだけかと思っていた。夢みがち女って、受け身で拗らせてるのが基本装備だし。
だから、油断していた。待ってるだけで、王子さまに出会えるほど現代社会は甘くない。
ツキは、継母にいじめられて灰を被ったりしていない。鏡が答えてくれるほど、美しいってこともない。もちろん、人魚の国からやってきたはずがない。
白馬に乗った王子が突然あらわれて、古典の授業中にうたたねしているツキに目覚めのキスをかますことなんて有り得ない。
そこそこ幸福な女子高生を、おとぎのくにの王子さまは救い出してくれたりしないのが鉄則だ。
「王子さまを探して、どうするの」
だけど仕方なく、くわしい話をきいてみる。正直、彼女を甘やかしている自覚はある。
やっぱりむかつくので、ツインテールの房の手前側にあるほうを無言で三つ編みにしてやった。これは、横向きに座ったツキがわるい。
ツキは毎日かわいいリボンを選んで、ツインテールを結んでいる。これは、プリンセスが毎朝ティアラを選ぶ儀式と同じらしい。
きょうはベロア生地の紺色リボンだった。リボン未体験の俺でも、これが高級なやつだとわかる。光沢といい、なめらかな毛並みといい。



