そして、ふわりとやさしく、くちびるが重なった。
こういうときは、目を閉じるって知ってたのに、そんなのも忘れて、ぱっちり目蓋を開けたままでキスしてしまった。
やわらかくて、あったかくて、心地いい。
どうしよう、はじめてのキス。
少しもずれることなくまっすぐに重ねられた、ホシくんの温度と湿度。柔らかなそれが、なんだか、もう、ありがたいものに感じちゃう。
目、瞑らなくてよかった。
だって、キスの魔法がかけられる瞬間を、ちゃんとこの目で見られたから。
ホシくんの温度を知った途端、世界が鮮やかに、瑞々しく、煌めきだした。
ここは放送室なので殺風景だけど、もし枯れたお花があったら、咲き乱れちゃってると思う。壊れたエアコンも起動するし、割れたガラスはステンドグラスになると思う。
それくらい、あたらしい世界は美しかった。
どれくらいの時間が経ったのだろう。スローモーションに流れていたので、正しい時間の感覚がわからないけど、きっと、ほんの数秒間。
だって、わたし、息を止めていたから。
くちびるを離したホシくんは、わずかな距離を置いて、ふわっと甘く微笑んだ。
あ、ときめいた。ときめきって、こんな、あっけなくて、きらきらしてるんだ。
しらなかった。
わたしが、ぷはっと吐き出すようにようやく呼吸できたのを見て、彼は楽しそうにわらう。
ホシくんは王子さまだけど、魔法使いでもあるみたい。わたしをプリンセスに変身させてくれるのは、この世界で彼ひとりだ。