それから、音を立てずに、放送室の扉を開ければ。
むん、とぶつかるのは、廊下よりも暖かい空気。
ここは防音。
学校中に放送される、ふたりだけの世界。
公然の密室。
正面、わたしの視線の先には、マイクに向かう幼なじみの後ろ姿がある。
相変わらず眩い光を放っていて、やっぱり星の近い所に在るひとだ。
そんなあなたが、マイクに向かって、問いかける。
『「俺のことを、あなただけの王子さまに選んでくれませんか?」』
みんなが聴いているのは、機械越しの王子さま。
ここにいる、わたしだけが、生の声をきいている。
みんな、羨ましいでしょ?
だってほら、こんなの、まるで。
大きな舞踏会の中心で、とびきり素敵な王子さまに、ワルツを誘われたとくべつなプリンセスみたいでしょ?
わたしは、はっきりと、マイクにも届くような音量で。
とっくに決まってる返事をした。
「ええ、よろこんで、王子さま」
制服のスカートの裾をおさえて、お辞儀もして見せた。プリンセスみたいに。



