『俺はね、王子さまでもなんでもなくて、ふつうの、ただの男でした』
わたしは静かに、席を立って。
教室を出る。駆け出す。
『でも、女の子は、みんなが平等にプリンセスです』
廊下にも、ホシくんの声が降っている。
それを聞きながら、わたしは走った。
『だから、あなたが選んだたったひとりの相手なら、どんなやつでも王子さまになるんだよ』
知らない生徒たちにも、あ!プリンセス・メイだ!と指をさされる。
普段のわたしならウインクくらい投げてあげるけど、いまはそんな余裕がない。
『ねえ、ツキ?』
とにかく、走る。換気のために窓が開けられている冬の廊下は空気がとっても冷たくて、酸素を取り込む肺まで冷える。
『オマエは正真正銘のプリンセスだからさ、』
耳も、いたい。痛いけど、あなたの声が聴きたい。
〝放送室〟の看板に辿り着いて、足を止める。
ぜーはー。ぜーはー。荒い息を、ドアの前で整える。
体育、参加しなくてよかった。体力温存してなかったら、走れなかったとおもう。
ほらね。やっぱり、プリンセスの選択は正しい。



