きょうの古典の授業は、万葉集。
「いかばかり 思ひけめかも しきたへの 枕片去る 夢に見え来し」
そのひとつを、古典の先生が詠みあげる。
その声につられてなんとなく目線を上げれば、先生のそれとがっつり絡んでしまった。
「この現代語訳、星野できるか?」
名前を呼ばれて、やっぱりな、と頷く。予習してあった箇所なので、ノートに書いてあったものをそのまま読みあげる。
「あなたがどんなに私を思ってくださったからでしょうか、枕の片方をあけて寝た私の夢にあなたがいらして見えたのです」
もちろん、ノーミス。ありがとう、電子辞書。
先生が褒めてくれるのを気持ちよくききながら、俺は自分が読んだ部分をなぞっていた。
心理的には、自分がつよく想っているから、相手の夢を見るのだと考えるのが合理的だろう。
しかし、むかしの人は夢には、呪術的な力があると考えていたらしく、相手のほうが、自分を想いすぎているから夢に出てくると考えたわけだ。
俺が満点の回答をしたのに、聞きもしないでうたたねしているツインテールを後ろから眺める。
ねえ、オマエもさ。
もしかして、俺の夢を、みてたりするの。