午後の授業は、古典だった。

俺の席から対角線上、ななめ前に見えるツキのツインテールがゆらゆらしている。


うつらうつら、船を漕いでいるらしい。のん気なものである。



もちろん、午後の眠気に逆らえないツキなんかに、王子さまがキスで起こしてくれるご褒美はない。白馬が乱入することもなく、授業は遅足で進んでいく。


基本的に優等生の俺だけど、きょうはまったく身に入らない。なんか、ばかになった気がする。今朝から偏差値が急降下している。


いまの俺なら、進路希望調査の紙にも〝第一志望:深月明子の王子〟と書いてしまいそう。

それくらい、ばかになっている。



だって、俺が、ツキの王子に選ばれたい。

たったひとりの相手として、ツキが俺以外の誰かを選ぶなんて想像しただけで肺が黒くなる。でも、それがないと落ち着かないからだになっている。もうね、ほぼ煙草の副作用。

まあ、俺と煙草は、ちょっと縁がないけれども。