ああ、そういえば、今夜は星が降るらしい。ふたご座流星群が、ざらざらと空を駆けるらしい。
せっかくならツキといっしょにみたいので、いつも通り誘おうとおもっていた。ツキが、俺の前の席に、横を向いて座った。
本来そこは友人の吉原の席なのだけど、彼はいま不在。
見慣れた横顔の彼女が、こうやって俺に絡んでくるのはよくあることだ。またどうせ、きのう見た恋愛ドラマの話や、お気に入りの少女漫画の話でもされるのだろうと思っていた。
ツキは、恋に憧れを抱くタイプの典型的な夢みがち女である。
彼女の愛読書は〝ごくふつうの女の子なのに、じつは小国のプリンセスだった〟という、おとぎばなしみたいな児童書だし。
「いきなりどこかの国の王様と女王様が現れて、〝じつはあなたは私たちの子どもなのです〟とか言われたらどうしよう」と不必要な悩みを抱えている。
どのタイミングで王子さまにダンスを申し込まれるか分からないからって、社交ダンスを習っているような女の子だし。これがなぜか俺も強制的に付き合わされて、ワルツとか踊れちゃうし。「よかったね、ホシくんもこれでお姫さまをエスコートできるよ!」じゃねえよ。んなこと、あるわけないだろ。
そんなかんじでフィクションを生きている彼女が、いきなり真剣な声色でたずねてきた。
「ホシくんって、わたしのこと好き?」
「は?」
「ここ大事なの、こたえて」
完全に、油断していた。だってこんな面倒くさい恋人みたいな質問を、ただの幼なじみが投げつけてくるとは想定外だったから。
それこそ、夢にも思わなかった。