薄桃色に染まったくちびるを尖らせた彼女は「ビョーキの話?死ぬの?」と、よく考えもせずに言葉を返してくる。
「死にそうになるくらい、しんどいらしいよ」
にやり、悪い笑みを見せて、俺が話す。ゆっくりと、ツキの不機嫌が解けていくのがわかる。この話題は、彼女の興味を掴んだらしい。
「恋の病で死ぬのはやだなあ」
「ツキはどうやって死にたいの」
このタイミングで、さりげなくお弁当箱を開きながら訊ねてみる。
いただきます、と小さく声に出すと、めしあがれ、と返ってきたのでご機嫌は上昇してきていること間違いない。
そんなツキは、「うーんとね、」と首を傾げて、すこしのあいだ悩み込んで。
「好きな人にぎゅうって抱きしめられて、その腕のなかで窒息したい」
と、答えて、相変わらずフィクションで生きてることを見せつけた。
「もれなく、その好きな人がタイホされちゃうよ」
「じゃあ、暗殺」
つぎの回答は早かった。こちらが本命なのかもしれない。ツキは、いちばんに思い付いた考えを隠して、後出しする癖がある。
俺は、彼女の悪い癖を、たくさん知っている。



