そして、数秒後。ようやく脳が言語を理解して動けるようになった俺は、とりあえず瞬きを繰り返した。ぱちぱちぱち。
そして、さっきの吉原発言を脳内再生して、そっと目頭のツボを抑えた。こころなしか頭痛がするのは、眼精疲労のせいだと思いたい。
そして、全然わかってくれない友人への説得にとりかかる。ちょっと強気になるため、三角座りの両膝を立たせたままでクロスさせた。
ほら、言うでしょ。主人公に試練はつきもの。
「いや、だから、俺がツキと結婚したいとかしたくないとかじゃなくて、」
「じゃあ、問題なくね?幼なじみが誰を王子さまに選ぼうと」
あーもう!そういうことじゃない!!!
結婚したいとかしたくないの次元じゃなくて、結婚するって決まってるの。それがもう、俺にとっての人生設計だったわけよ。
だからね、いきなり「ハイ、今日からわたしは王子様探すから、ホシくんはホシくんで楽しくやってね」とか言われても無理なの。
自慢じゃないけど、俺、恋とかしたことないし。
まともな交際経験もないの、知ってるよね?
ていうか、俺もそうだけど、ツキもそうじゃん。交際経験どころか、異性と触れ合ったりしたことないじゃん。
そんなツキが、砂糖しか詰まってない脳みそで、しっかりしたマトモな王子さまを選べるわけがない。
それどころか、わるいひとに騙されて拐われちゃうかもしれない。
うん、その可能性もじゅうぶんにある。これは、とってもたいへんなことだ。
「ツキのことが、心配なの」
俺は大きく頷いて、断言した。
「ホシチカは過保護すぎるって」
そして、さっくりと一刀両断された。
吉原は別チームのバスケの試合を眺めていて、俺の真剣な相談事を片手間に聞いてやがる。めちゃくちゃ大事な話なのに。



