吉原はあぐらをかいたけど、俺は気分的に三角座りをしてしまう。しかも膝に額をあててしまい、もう、完全に落ち込んでる奴のポーズしかできない。
「なに、どうしたの」
半笑いのまま、吉原がたずねる。心配してるのと面白がってるの、たぶん割合的には後者が優勢だ。でも、それに怒る気力も今はない。
「わかんない」
「わかんない?喧嘩では、ないよな?」
「まったくない、でも、それよりしんどい」
じぶんが、何に対して気分を落としているのか、明確なところがわからなくてしんどい。心をきちんと整理しようとすると、ツキの小馬鹿にしたような微笑みが映像化されて。
————ホシくんって、案外、夢みがちなんだね
夢見がちの権化みたいな人間のせりふが、脳内にリフレインする。それに打ちのめされて、けっきょく心の整理がつかないまま、4時間目の体育まできてしまった。
いいかげん、午後の授業には、しゃっきりした俺に戻りたい。余裕のある王子さまを見せつけたい。
そんなわけで、精神を整えるためにも、やっぱり吉原に聞いてもらうことにした。
「朝からツキが、へんなこと言ってきたんだよ」
「うん、いつものことじゃん?」
さすがは、吉原。俺のことだけでなく、深月明子のことまでしっかり理解してくれているらしい。だけどね、吉原。きょうは、ちょっとちがうのよ。
「ツキがさ、王子さまを探してくるって宣言した」
「それも、いつものことじゃん」
「王子さまと結婚するからプリンセス・メイって呼んでね、とか言ってきた」
「いや、マジでいつものことじゃん」
いつものこと。ひとことで、片付けられてしまう。いつものことだったら、三角座りなんてしないのに。



