ツキの機嫌がいいときは「ホシくんだけ、とくべつに見せてあげるよ」という〝とくべつ〟の甘美な響きに流されて、そのダンスを見せられる謎の時間がある。
え?これいま何の時間?と思いながら、目の前でアイドルになりきる彼女をてきとうに眺めたり、飽きたらてきとうにスマホを弄ったりして時が過ぎるのを待つ。
観客は俺ひとりなので、こちらに向かって手を振ってもらえたり、ウインクを飛ばしてもらえたりなどと、ほんとうにいらないファンサービスもある。
客観視するとシュールすぎて笑いそうになるけど、目の前のツキがきもちよく踊っていて、とっても楽しそうなので、まあ、それでいいやって思う。
ツキとうまくやっていくコツは、感情をフラットに持つことだ。いけない、それを忘れていた。
たしかに、きょうの俺はフラットじゃない。
俺らのチームは次が休憩なので、他のチームメイトたちと同じように、俺らふたりも壁際に座り込んだ。



