『は、はい。どうしましたか?』

あの子が勢いよく振り返る。

俺が同じ目線にいたからか、分かりやすくびっくりしている。しかも舌まで噛んでしまっている。

俺、緊張されてるのかな?

「ふふっ、そんなに緊張しないで?ちょっと練習メニュー見せてほしいんだけど…。」

話したい口実なんだけどね、っていう言葉は飲み込む。

あの子は物珍しそうな顔で俺を見たが、メニューの書かれた紙をくれた。

「ありがと。」

そう言って紙に目を通すふりをする。

この子にマネージャーになってほしいな、というか普通に仲良くなりたい。


ふと、そう思ったら内緒で色々教えてあげたくなってしまった。

「……そろそろタイマー準備するといいよ。」

ボソッというと、聞こえてたらしいので

「……あ、気にしないで。ただの独り言だから。」

と言い残して練習に戻る。


そういえば場所、わかるかな…?ちょっと心配だな…。

そんなことを思いながら、あの子が出て行った扉を見つめていると

「おい、蒼生。どこ見てんだ?なんかあったか?」

蓮が話しかけてきた。

「いや、なんでもないよ。ちょっと気になる事があってね。」

「ふーん、なんだ。乃蒼のこと見てんのかと思った。」

ドキッとしてしまう。

「なんでそう思った?」

「いや、前にあいつの中学の時のこと話したじゃん。そのことでなんか気になることでもあったのかなって。」

…あぁ、蓮が心配してるのはそういうことか。

「お前にしか話してないからさ。」