あぁ、一ノ瀬先輩だ。

話しやすいように、わざわざかがんでくれている。…本人は気づいてないかもだけど、ち、近いっ!

『ええええっと、あの…。』

緊張して舌を噛んでしまった。痛い…。

『は、はい。どうしましたか?』

私が勢いよく振り返ると、先輩が同じ目線にいた。

予想外のことにびっくりして、舌を噛んでしまった。

「ふふっ、そんなに緊張しないで?ちょっと練習メニュー見せてほしいんだけど…。」

笑いながらかがんだ姿勢から、もとの体制に戻す先輩。

結構背高いな…。蓮より大きい?かも。

『は、はい。これです!』

「ありがと。」

練習メニューが書いてある紙を渡す。

…そういうの確認する人もいるんだ。まめな人なんだなぁ。

「……そろそろタイマー準備するといいよ。」

上の方からボソッと声が聞こえた。

『え?』

見上げると先輩と目が合う。

「……あ、気にしないで。ただの独り言だから。」

そう言い残したあとは、何もなかったかのように練習に戻っていく。

…確かにそろそろ準備してもいいタイミングだ。もしかして、教えてくれたのかな…?


『これ、先に動かさないとだよね…。よいっしょっ。うわぁ、重い。』

タイマーの前にある卓球台をどかそうとする。全然動かない…。

すると、卓球台に引っ掛かっていたひもが引っ張られて、棚の上にあったバドミントンのネットが入っている箱が落ちてきた。

やばい、間に合わない…!

とっさに顔の前に腕を出して、ぎゅっと目をつむった。