翌日も翌々日も勉強をした。
4日目のホームルームが終わった後、友達の安本早苗(やすもとさなえ)が声をかけてきた。
「詩穂、あんた今日帰りどうするのー?」
「どうって?」
「今から帰るなら、一緒に帰らないかなって。」
詩穂は、電車に乗って、5つ駅を超えてこの学校へ来ている。
早苗も、同じく電車に乗ってやってくる。
ただし、超える駅は4つ。
このあたりでは、4つも5つも駅を超えてくる子は珍しい。
それに、通学時間帯になると、電車の車内はぎゅうぎゅうになるので、詩穂はいつも早い電車に乗っていた。
早苗も友達と、同じく早い電車に乗っており、クラスは違うけれど、顔見知りになり、友達になり、いつの間にか3人で毎朝一緒に学校へ通うようになっていた。
「サナエー、帰ろー。」
早苗の友達こと5組の、松代 和子(マツシロ カズコ)がやってきた。
和子は、早苗の小学校からの同級生。
部活まで同じなので、朝も帰りも2人は一緒だった。
和子も、もちろん、詩穂の友達。
1年の時は、3人がクラスばらばらで、2年生になって、和子と、詩穂が一緒になり、
3年になって、早苗と詩穂が一緒のクラスになった。
「あっ今日は、詩穂も一緒?」
詩穂と早苗が話している所をみつけた和子がすかさず聞いた。
「うんやーごめん。」
「分かったー。そしたら明日ね。」
「うん、ありがとう。」
2人に手を振って分かれた。
窓際より、3列目、後ろより2番目の席の詩穂。
一番廊下側、前より3番目の幸一。
2人は、友達と適当に話ながら、1人、2人と帰っていく姿を笑顔で見送った。
詩穂がトイレへ行こうと教室を出た。廊下には、もう人がほとんどいなかった。
そして、詩穂が教室へ帰ってきたら、幸一だけになっていた。
初めて、2人の視線があった。
「4日目よ、ちょっと私偉くない?」
そう言いながら英語の教科書を持って、幸一の隣の席へ移動した。
「偉いのは私よ。あんたらみたいな子達に大切な時間さいて。」
と鼻にかかるような声で小松が教室へ入って来た。
「ちょっとは、まともになったやろ?」
詩穂が小松に笑いかけた。
「何がまともなもんかね。下の下が、下になっただけやないか。」
詩穂はえーっと口をとがらせた。
幸一がその姿を見て笑った。