花音(かのん)

今朝も、幸一と、夏樹と圭吾が3人で立ってバスに揺られていた。
すでに満員状態なのに、一駅一駅過ぎるごとに学生が多くなってくる。
「幸一さん、昨日、面白い話しを聞いたんですが」
圭吾が真ん中に立っている夏樹を避けるようにして少し顔をかしげ、幸一に小声で話しかけた。
「なに?」
幸一も同じように、圭吾を見るように顔をかしげ、返事すると、圭吾が続けた。
「佐々木さんには、彼氏が居るらしいですよ。サッカー部の、なんとかって言う、爽やかを絵に描いたような人。」
「噂だろ。」
夏樹が両手てつり革を持っていた片手を圭吾の脳天にチョップを食らわせた。
「藤井のことかなぁ。」
「さぁ・・・。昨日の帰り、ハレハレでかき氷食べに行ったんだけど、一緒に居た、クラスのサッカー部のヤツが、その人指しながら、あいつにも彼女ができてょ。って行っててさ」
と、そのサッカー部のヤツらしい声真似をしながら、圭吾が言った。ハレハレとは、電車通学の人達が使う門のすぐ脇になる、喫茶店。喫茶店といっても、学生のたまり場みたいになっていて、メニューも、今の時期、かき氷だったり、スーパーに売っている、お菓子や、アイスクリームなどを置いている。冬はもちろん、肉まん。そんなチープなお店だった。
圭吾は、少し間を置いて、
「その爽やかな人の横を歩いていたのが、なんと佐々木さん。」
「サッカー部のヤツ、あの女の子可愛いなぁ・・・なんて言ってたな。」
夏樹が言った。
「あぁあぁ、確かに、佐々木さんは、可愛い。」
圭吾がうなずいた。
バスは、学校の最寄りバス停に停車した。
バスを降りて、
圭吾は、幸一の肩を組みながらインタビューのマイクを握るように、手をグーにして幸一の前に出して言った。
「奪いますか!?」
「だから、噂だろ。」
夏樹が隣を歩きながら言った。
「だから、噂だろ。」
幸一も笑って言った。
その笑顔を見て、夏樹が微かに顔をしかめた。
「ハレハレに行ったんなら、誘ってくれたら良かったのに。」
口をプゥと幸一は突き出してみせた。