折り畳み式の錫杖(しゃくじょう)を取り出し、祷巫(じゅふ)を唱える。3回床をついて音を鳴らせば雨香麗から零れ落ちた死霊は光をまとって消えていった。

 大きなダメージを与えられたのか、雨香麗……巨大な霊魂は奇声を発して苦しみ出す。その拍子に柴樹もそこから放り出された。




「柴樹! 平気か!?」




 すぐに駆け寄ると柴樹は何度も咳をしながら体を起こし、首を縦に振った。けど再び耳に悪い声を上げて死霊を呼び寄せるヤツを前に、オレは意気消沈する。

 いくら傷を与えても、あいつはそれと同じくらいの速度で治癒してまう。それどころか、さっきよりも大きくなってように見えるソイツを見て、思わず呟いた。




「……もう無理や」




 あんなの、オレ達に相手できる代物やない。これ以上やりあえば、この中からほんまに死人が出てまう。柴樹には申し訳ない気持ちでいっぱいや。でも、オレには他に守らなあかんもんが……──。



「あだっ!?」



 俯いてそう思った時、背中に痺れるような痛みを感じた。びっくりして振り向いたらオレを睨む瑮花と目が合う。




「あんたそれでも神慈職(かんじしょく)なの!? このくらいで諦めるなんて信じられない!」

「んな言われても……もうあいつは弑莫(しいばく)霊同然やぞ! 自分で死を選んだ人間なんや!」




 弑莫(しいばく)霊はいわゆる地縛霊。そんなん、下っ端浄霊師のオレの出る幕やない。除霊師(じょれいし)とか、上の階級が動く話やで。

 投げやりに(まく)し立てると瑮花は目に大粒の涙を溜め、震える声で怒鳴る。




「あんたには力がある。あたしなんて……あたしなんて役に立ちたくてもその力がないのに!!」