瑮花が耳に刺すような叫び声を上げて窓辺に走る。俺も慌てて駆け寄って下を見ると植木の上で微かに動く麗司さんが見えた。




「くそっ、部屋の外に出られんことには……!」




 早く麗司さんを病院へ運ばないといけなのに部屋のドアは開かず、俺も霊体なため何にも触れられない。

 今誰かが窓から飛び降りれば、間違いなく麗司さんを下敷きにしてしまうだろう。家の壁をつたって降りようにも、この雨だとまた怪我人が出る。

 絶望的な状況に皆一様に拳を握り締めた。きっと、ここを打破する方法はひとつ……。




「雨香麗を、祓う」

「は!? ちょっとあんた何言って……!」

「それ以外になんか方法あるんか!?」




 俺よりも先に最終手段を口にしたのは徳兄だった。瑮花は俺の気持ちも考えろだの、方法を探さずに諦めるなだの、必死に徳兄に抗議してくれる。でも、もう……。




「いいよ、瑮花」

「し、柴樹……」

「徳兄の言ってることが正しいんだ。きっと……」



 雨香麗を殺すくらいなら、この世界がどうなってもいい。そう思ったこともあった。あった、けど……。
 もし、雨香麗の手で徳兄や瑮花まで殺めることになってしまったら。そう思った時、酷く胸が痛んだ。

 ……ごめんな、雨香麗。

 黒く蠢くやつらの中で虚ろな表情をした雨香麗を見上げる。その時、雨香麗の背後で白い何かが光った気がした。