徳兄がそう叫んで窓ガラスを背に2人を抱いた時、ぴたっと音が止んだ。衝撃を覚悟していた3人も恐る恐る顔を上げる。

 ……なんだ、この静けさ。死霊が去ったわけではない。

 いまだ窓の向こうで蠢くそいつらを確認して、今度は雨香麗に目を向ける。するとさきほどまで微動だにしなかった雨香麗の手が微かに動くのを右手に感じ、声をかけた。




「雨香麗?」




 呼びかけに反応するように瞼が揺れ、ゆっくりと目を開ける。

 よかった、戻っ────。

 そう思ったのも束の間、あいつらと同じ朱に染まった雨香麗の瞳と目が合う。同時に窓が割れ、なだれ込んだ死霊に阻まれて俺は雨香麗の手を離してしまった。

────雨香麗……っ!

 いまさら手を伸ばしてももう、雨香麗には届かない。俺は強い邪気に飛ばされ、唖然として雨香麗を見ることしかできなかった。

 ……う、嘘だ……。雨香麗が……雨香麗が、堕ちてしまった。




「っ……うそ、やろ」




 徳兄も苦しそうに立ち上がりながら雨香麗を絶望的な目で見つめる。

 終わった……なにもかも。一か八かの賭けにも負けた。雨香麗は抗うことができなかった。

 俺は今まで何をしてきたんだろう。雨香麗を救う一心でここまで来たのに、それすらも果たせないなんて。この手で、雨香麗を救うって……。

 力なく、先程まで雨香麗の手を握っていた自分の右手を見る。

 俺があの時、雨香麗を独りにしなければ。手を、離さなければ……──。