俺の手を握り返す力もより一層強まり、浅い呼吸を繰り返す。

 頑張ってくれ。耐えてくれ、雨香麗……!

 徳兄がベッドの下を覗き込んだ。




「鍵ならそこにはないと思うよ。そこは僕も探したから」




 麗司さんの言葉通り、ベッドの下には何もなかったのか、徳兄は難しい顔をして立ち上がった。でも雨香麗は真っ直ぐにそこ示し続ける。

────いったい、何を伝えようと……。

 場にいた皆が頭をひねった時、瑮花が控えめに言った。




「マットレス……」

「は?」

「マットレスだよ。その下にあったり……しないかな」

「なるほど、そこは盲点だった。僕もまだ見てないから、持ち上げてみよう」




 麗司さんと徳兄、2人がかりで大きなマットレスを持ち上げる。




「どうや、瑮花! なんかあるか!?」

「ちょっと待って、暗くてよく見えな……あっ、これ……!」




 奥に手を伸ばした瑮花が取り出したのは小さな鍵だった。徳兄達も瑮花が離れたのを確認してゆっくりとマットレスを元に戻す。




「本当にあった……」




 言い出した本人が一番驚いており、麗司さんに促されて埃にまみれた鍵を箱に宛がう。

 かちゃん、と小さく鍵の解ける音が聞こえ、瑮花は恐る恐るといった様子で蓋を持ち上げる。雨香麗はそのそばに寄り添い、暗い瞳で箱の中身を見た。




「こ、これ、って……」




 その場の空気が凍りつく。箱の中には大量の睡眠薬、乱雑に書きなぐられた紙、鋭い刃物で切られたかのような跡のついた日記帳が入っていた。

 震える手で瑮花が紙と日記帳を(めく)っていく。そこには当時の雨香麗の気持ちが痛いほど伝わってくるような、文字が走り書かれていた。

 いじめのこと、居場所がないこと、死のうと企てた自殺のこと。

 荒い息遣いが隣で聞こえ、はっとして振り返ると口元を押さえ、嗚咽を繰り返す雨香麗が目に入った。




「雨香麗……! ダメだ、負けちゃダメだ!!」




 苦しむ雨香麗は俺の手を振りほどこうとする。次第に外にいる死霊の力も強くなり、窓が割れんばかりに震え始めた。

 ダメだよ、雨香麗……戻って来て。雨香麗には俺が、皆がついてるから。

 必死に抗う雨香麗に届くように、俺はその手を強く握った────。