ベッドに放り出された両腕には管が通り、その腕には無数の傷跡が残っている。顔色も酷くやつれ、今の雨香麗とは似ても似つかない。
思わず後退ってしまうとそばを静かに雨香麗が横切った。その表情は次第に引きつっていく。
「お、にい、ちゃん……」
思い出したんだ。
雨香麗の呟きは徳兄にも聞こえていたらしく、一度目だけをこちらに向けた。
でも俺も徳兄も、今は雨香麗に反応しちゃいけないのを知ってる。今、雨香麗の中で何か起こっているのは確かだ。
そっと見上げれば、その瞳は麗司さんとベッドに横たわる自分をしっかりとらえている。その状態がしばらく続き、徳兄達が立ち去ろうと席を立った。
────俺達も、そろそろ行かないと。
雨香麗のそばに行くとゆっくりと俺の顔を見て、涙をいっぱいに溜めた目で無理に笑う。俺は曖昧な笑みしか返せないまま、雨香麗とともに徳兄達のあとを追って病室を出た。
「思い出せた?」
「……うん、いっぱい、思い出した。でも大事なとこ、思い出してない」
さっきよりも涙に濡れた顔で雨香麗は言った。
……次は、自殺未遂をした自室だ。今度はきっと、こんなものじゃ済まない。もっと思い出すだろうし、すごく苦しまなきゃいけない。