あの日、祠の元で目覚めた雨香麗はしばらくの間俺を待ってくれていたらしいのだが、いつまでも来ない俺を心配して探しに出てしまったと言う。
これも、俺のせいだ。
そしてあちこちを歩き回るにつれ、あいつらと出くわすことが増えてしまい……気がつけばこうなっていたと話すが、きっと徘徊しすぎたせいで、いろんな負の感情をかき集めてしまったんだと思う。
人の感情で厄介なのはそこだ。
普通に生きていてもそこは拭いきれないのに、こうやって魂だけをさらけ出しているとどうにも引き寄せやすくなってしまう。
雨香麗なんて自分が離脱した状態を知らないのだから尚更だ。
最後に雨香麗は言った。
「わたし、本当のことが知りたい。帰りたいの」
その瞳には確かな信念が宿っていた。
「だから、教えて。わたしが帰る方法」
迷いのない雨香麗に頷き、俺はひとつずつ話していく。
「君の本当の名前は、紅苑 雨香麗」
「あか、り……?」
「そう、雨香麗。雨に香る、麗しい君だよ」
そう言って笑って見せるけど、どうやらピンときてないらしい。
以前は本当の名を知ってしまえば、膨大な記憶が蘇ってきてしまうと思って、とっさに彼女に名を授けてしまったけど……。どうやら、今の彼女の記憶の損失は重症だ。
それに、俺のことは覚えてくれているみたいだけど話を聞くに、何をしたか、どんな会話をしたかは曖昧だと言っていた。
でもだからこそ、これは好都合かもしれないとも思う。
きっと今の彼女に徳兄や瑮花からもらった情報を渡しても、何も思い出せない。それをわかっていながら俺は彼女に次々と情報を提唱していく。
雨香麗のお兄さんのこと、お父さんのこと、本当は雨香麗の体は病室でずっと眠ったままだということ。