頬を打つ暴雨は、まるでこの先へ立ち入ることを拒んでいるようだった。

────雨香麗……。

 薄暗く嫌な雰囲気を纏う路地裏。皮肉にもあいつらが雨香麗を呑み込んでいるおかげで、その気配を探るのはたやすかった。そこへ近づく度に、全身に鳥肌が立つ。

────体が、拒否してる。それほどまでに雨香麗は力をつけているんだ。

 一歩一歩、路地を進んで行く。突き当たりのT字路を迷わず右へ曲がれば、黒くドロっとした塊が蹲っていた。




「……しずく」




 少しかがみ、穏やかな声でそう声をかければ、それはゆっくりと顔を上げた。

 呑まれそうになっているけど、ずっと抗っている。その証拠に、雨香麗はまだ自我を保っていた。

 雨香麗は俺の顔を見るや否や、目を見開いて何度も口を開けては閉じる。




「大丈夫。僕はもう、どこにも行かないよ」




 そう言ってドロドロにまみれた雨香麗をそっと抱き締める。次第にその手を強めていけば、俺達を暖かい光が包み、奇声を発して雨香麗の周りに蔓延(はびこ)っていた死霊(しりょう)が消え去った。




「っあ……」




 同時に雨香麗からも声が漏れる。




「紫樹……っ! 紫樹、会いたかっ……」




 雨香麗はすぐ勢いよく話そうととするけど、それは涙でつかえてしまう。そんな雨香麗を落ち着けるように、しばらくの間背を撫でてやる。

 俺も会いたかったこと、独りにさせてしまったこと、助けに来たかったのに来れなかったこと。いろいろゆっくりと話しながら、雨香麗が落ち着くのを待った。




「……落ち着いた?」

「うん……ごめん、ありがとう紫樹」




 ようやく落ち着き、離れようとした雨香麗の手を強く掴んだ。




「手は、離さないで。またあいつらがやって来る」

「う、うん」




 それから雨香麗と話し合った。雨香麗がどうしてああなってしまったのか、何があったのか、本当のことを知りたいか。