「……無謀だ」




 全てを話してから少しの沈黙。それを最初に破ったのは父さんだった。




「離脱してその霊魂の元へ行こうなど……無謀にもほどがある」

「坊のことを信じてないわけちゃいますけど、こればっかりは雅久(がく)さんに同意します」

「……あたしも。一歩間違えば死んじゃうんだよ?」




────わかる。わかってるさ。わかってて俺はその道を行こうとしてる。だって……。




「大丈夫、朱紗は約束してくれた。〝最大限の加護を(もっ)て俺を守る〟って」




 だから俺が死ぬようなことはない。そのことを丁寧に伝えた。こんな俺の心配をしてくれる皆を、ちゃんと安心させられるように。




「では、柴樹よ」

「……はい」




 これまで黙って腕を組んでいた爺が口を開いた。




「約束しろ。もう、これを機に二度と離脱はせん、と」

「約束します。神の名において」




 その場に片足をつき深々と礼をすれば頭に手がのせられた。はっとして顔を上げればもう手は離れ、爺の背中だけが俺を見下ろしている。

 ……嘘、みたいだ。

 爺にこうやって頭を撫でられたのなんてどれくらいぶりだろう。胸に宿る温かさを噛み締め、立ち上がる。




「皆、準備を。柴樹の離脱援助はこの祭殿で行う」




 爺のその一言でその場に再び慌ただしさが訪れる。俺も着替えるため一度自室へと戻ることにした。