自分で口にしながらだんだん意味を理解し始めて慌てふためく俺の頭を、朱紗は小さな手で(はた)いた。痛くはないもののその感覚に顔を上げると、浮遊した朱紗が頬を膨らませて怒鳴る。




「勝手に話を進めるでない。確かにその話は本当だが、我がもそこまで鬼ではないわ。連れて行くなら、ちゃんと本人が同意した上連れて行く」




 よかった……。もし勝手にここに連れて来られたのに、向こう行きが確定しちゃったらどうしようかと……。

 ほっと胸を撫で下ろしたのも束の間、朱紗はまた話し出す。




「して、主。我がに強く願ってくれたな」

「あ、そうだ……! 朱紗、力を貸して!!」




 今しがた思い出した目的を朱紗に話そうと口を開く。けれどそれは朱紗の人差し指によって遮られてしまった。




「言わずとも分かっておる。あの小娘を救いたいんだろう?」




 首を縦に振れば朱紗は「我がもそのことについて話したい」とその場に座った。俺も習って朱紗の向かいに正座する。




「全て教えてやることは容易(たやす)い。だが、それだけではつまらん」

「……俺はなんでもする。雨香麗が救えるなら、なんでも」

「ふふっ。そうか、やはりそう答えるか。よかろう」




 朱紗はとびっきりの笑顔を見せると、条件を突き付けて雨香麗を救う方法を教えてくれた。

 雨香麗を救える〝かも〟しれない方法を。




「楽しみにしておるでな。さぁ、目を閉じて」




 全てを聞き入れて俺は目を閉じる。




『少し反動があるかもしれんが、なに、我ががまた手を貸すでの。すぐに動けるようになろうて』




 頭に朱紗の声が響き渡ると俺の体は重力を感じ始め、くぐもった爺達の祝詞や母さん達の歌声次第に鮮明になっていく。