時折苦しそうな表情を見せる雨香麗を見ていられなくて、思わず顔を逸らしてしまう。それでも雨香麗は必死に訴えてきた。




『たくさん、たくさん、人、傷つけてる。もう、いや……なの……に』




 突然雨香麗が水の中で溺れているかのように苦しみだし、はっとして視線を戻せば、周りの黒い(もや)が暴れ、膨張してかろうじて残っていた雨香麗をねじ伏せようとする。




『おね、が……紫樹、逃げテ……にげ────ニゲろぉぉおおォォお!!』




 ぎりぎりまで雨香麗は耐えてくれたものの、その声は途中で金切り声に変わり、耳を(つんざ)く。




「ぅあ……っ!!」




 鼓膜が破れんばかりの声に思わず耳を塞ぎながらその場に蹲ると、すぐに徳兄が「来い!」 と俺の腕を引き上げ、元来た道を走り出した。

 そこからはよく覚えてない。ただ、脳裏にずっとこだましていた声。




四囲(しい)に災いを纏いし生きた魂を感じる』





 ああ、そうか。やっぱり……──。

 校内のあちこちのガラスが割れる様子と、激しい痛みが目の奥を刺す。そして気がつけば救急車に乗っていた。そばには瑮花、徳兄がついている。何か話していたみたいだけど、なんだかすごく疲れてそのまま目を閉じてしまった。

 暗闇の中でもずっと繰り返しあの光景が蘇る。
 蹲る雨香麗。声をかける俺。化け物になって襲いかかる雨香麗。ボロ雑巾のように引き裂かれる俺……。

 ごめん、雨香麗。俺が、俺が独りになんてしたから────。