瑮花には聞こえないほどの声で言い、徳兄は校舎の方へ目配せする。

 ……感じる。確かに、感じるんだ。まだあの気配は中にいる。あそこまで無差別に人を襲う霊魂(れいこん)には会ったことがない。もし、ここに誰か助けに来ちゃったら……。




「もし、これ以上人が増えちゃったら」

「ソイツらも喰われるかもな」




 もしかするとこの一帯に人の気配が感じられないのも、皆すでに家の中でこの子達と同じ状態になっているからだとしたら、全ての辻褄が合うような気がした。




「よし、行くで!」




 そう言って徳兄は傘を放り出し、門を登り始めた。俺もあとに続く。不法侵入になるかもしれないけど、今はそんなもの気にしてる場合じゃない。




「あっ……! 柴樹、宗徳!! なにしてんの!?」




 必死に止めようとする瑮花の声が背後で聞こえるものの、少し胸を痛めながらそれを無視して玄関に向かって走り出した徳兄のあとを追う。

 広大な校庭を走り抜け、息が切れ始める頃、玄関まで辿り着くことができた。
 大きな両開きの玄関は4つほど並んでいたものの、どれも当たり前のように施錠されており開かない。




「くっそ!!」




 何度か徳兄が乱暴に扉を揺らした時、ふと右隣に影が落ちた。そして聞き慣れない声が降り注ぐ。